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気候変動と金融

=グローバル化の先の日本を考える(中)=

2022年08月04日

所長の眼

所長
早﨑 保浩

 米中新冷戦、コロナ危機、そしてロシアによるウクライナ侵略。予想もしていなかったショックに、世界そして日本は次々と見舞われた。グローバル化の流れは止まってしまうのか。エネルギー価格高騰の中で気候変動対応はどう変わるのか。この局面を日本はどのように切り開いていけばよいのか。長年国際的な舞台で活躍してきた氷見野良三・前金融庁長官と行った対談を、3回にわたり掲載する(2022年7月5日実施)。

 早崎:ロシアのウクライナ侵略をきっかけに、エネルギーのロシア依存の大きさが、欧州や日本で深刻な問題になっている。この問題への正攻法の対応として、脱炭素化を進める重要性が再認識されている。気候変動問題に関しては、金融の目線からどのように対応してきたか。

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脱炭素化(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

 氷見野:脱ロシア化や脱炭素化も大事だが、ゴールへの道筋でどのようにエネルギーの安定供給を確保するかという点も重要だ。特定の国だけが目標を達成するのではなく、世界全体として排出量が減るよう、取り組みを成熟させていかなければならない。

 例えば、欧州がロシア以外から天然ガスを購入すると価格が高騰し、新興国や途上国の石炭から天然ガスへの移行を邪魔してしまう。欧州は目的を維持できるが、世界全体としては石炭からの転換を遅らせてしまいかねない。また、化石燃料資源への投資を単純に座礁資産扱いすれば、移行の途中の道筋が見えなくなる。熟したプランを考えていく必要がある。

 金融の役割については、金融規制の側面と、金融市場における経済主体の役割の側面とがある。温室効果ガス排出が持つ負の外部性を内部化する責任は、基本的にはカーボンプライシングや排出量規制などの環境政策にあると考えられてきた。

 これに対し金融規制は、気候変動リスクの評価に必要な情報の開示や、金融機関の環境リスクへの感応度を高めることを目的としたストレステストなどを通じて、市場機能を高め、環境政策によって内部化された負の外部性が資源配分に反映されるようにしていくことが役割とされた。

 ただ、金融市場の主要な参加者である金融機関としては、規制を順守していれば良いということではない。金融機関にはさまざまなステークホルダー(利害関係者)が存在する。株主、お客様、さらには地域社会や従業員などの気持ちを考えた上で、どこまでやるか考える必要があると思う。先般、「座標軸を動かさないために」と書かれていたが、事業会社の立場からはどうか。

 早﨑:宣伝になってしまうが、リコーはかなり前から環境問題を取り組むべき大事な課題と位置付けている。まず自らの取り組みとして、工場やオフィスの温室効果ガス削減、複合機などの製品の省電力化やパーツ・素材の脱炭素化、循環経済化に向けた複合機のリサイクルの仕組み構築などに取り組んできた。

 社会課題の解決にとどまらず、自らの企業価値向上にもつなげると言っている。具体的には、リサイクル可能な製品と、そうでない製品があったときに、前者の方が受け入れられる世の中になるように変えていきたい。そうなれば、リサイクルの努力が売上げや収益の増加に結びつき、企業価値向上につながるはずだという発想を持っている。そうならない限り、取り組み自体が持続可能にならないという発想は先駆的だったと思う。

 環境対策が先進的とされるグローバル企業は、知名度や認知度、信頼度が上がり、売上げが増加する好循環を作り出していると思う。そうした努力が金融市場でも理解され、資金調達コストの低減や株価上昇につながれば、事業会社のインセンティブも高められるのではないか。

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リサイクルに取り組む企業(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

 氷見野:素晴らしい取り組みだと思う。願わくは、コロナ禍や気候変動問題、ウクライナ侵攻などの大きな課題に世界が対応する道筋を見つける過程で、日本からも世界制覇を成し遂げる企業が出てきてほしい。

 例えば、コロナ禍で増えたリモート会議のプラットフォームは米企業に制覇されてしまった。しかし電子ペーパーなど、世界制覇が可能な領域はまだあるのではないか。私はディスプレイで文章を読み書きするのは苦手だ。以前は自宅に大型レーザープリンターを置き、大量印刷をしていた。最近これを電子ペーパーに切り替えた。電子ペーパーなら目も疲れないし、書き込みもファイリングも可能。この1年で数万ページ分の文書を処理できた。紙や印刷機を動かすエネルギーも要らないので、地球環境にも優しい。同時に、良い物を作った上で、どう顧客を囲い込み、類似品に対抗するか、という点も課題だろう。

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環境問題について語る氷見野氏
(写真)財津大海

早﨑 保浩

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